旅館・ホテルでの活用:老舗旅館の未来を創る、業務改善シミュレーション(2)

旅館の課題が見えたら、次はAIと「勝つための作戦」を立てるフェーズです。「誰に」「どんなプランを」「いくらで」提供するのか、長年の勘ではなくデータで裏付けられた戦略を立てましょう。 AIを活用すれば、狙うべき顧客像(ペルソナ)の明確化から、ターゲットに響く新プラン開発、最適な価格設定までを一貫してサポート。「なんとなく」の意思決定から脱却し、成功確率の高い改善計画を具体化するステップをご紹介します。

旅館・ホテルでの活用:老舗旅館の未来を創る、業務改善シミュレーション(2)
Photo by Susann Schuster / Unsplash

はじめに:課題の「見える化」から、勝つための「作戦」へ

前回の記事では、AIを活用して予約データや口コミを分析し、旅館が抱える課題を客観的なデータとして「見える化」しました。

しかし、課題が分かっただけでは旅館は変わりません。重要なのは、その事実に基づいて「次に何をすべきか」という具体的な戦略を立てることです。

この記事では、シリーズ第2弾として、続く「活用シーン2:戦略立案フェーズ」を解説します。AIと共に、ターゲット顧客の再設定から新プラン開発、価格設定まで、勝つための「作戦」を立てていくプロセスを、モデルケースである若旦那の挑戦に沿って見ていきましょう。


シミュレーションの舞台

旅館名:
湯けむりの宿「月影(つきかげ)の郷(さと)」

概要:
都心から電車で2時間ほどの温泉地に佇む、創業80年の老舗旅館。
客室数は25室。源泉かけ流しの露天風呂と、地元の旬の食材を活かした会席料理が、昔からの常連客に愛されている。

登場人物

若旦那(佐藤)
この老舗旅館「月影の郷」の跡継ぎ。都内のIT企業での勤務経験があり、デジタル技術の可能性を感じている。
「このままでは未来がない…」と強い危機感を抱き、AIの力で伝統的なおもてなしと経営効率化を両立させたいと考えている。

悩み

繁忙期と閑散期の収益の波が激しく、経営が不安定。
常連客頼みで、若者やインバウンド客など新規顧客の獲得に苦戦している。
深刻な人手不足で、従業員の負担が増え続けている。


活用シーン2: 戦略立案フェーズ - 勝つための「作戦」を立てる

【旅館の課題】

旅館の現状が明らかになり、改善すべき点が見えてきました。しかし、具体的にどのようなお客様をターゲットに、どんなプランを提供し、いくらで売るべきか。感覚で決めて失敗することは避けたい。事実に基づいた、成功確率の高い戦略を立てる必要がありました。

【AI活用プロセス】

【準備】AIの提案精度を上げる「マイミッション」を登録しよう

具体的な戦略を立てる前に、非常に重要な準備があります。それは、AIに「私たちの旅館が目指す方向性」を教え込む「マイミッション」の登録です。

📝
ホーム画面右上のプロフィールアイコンから「設定」を選択 して、左側のメニューから「マイミッション」を選択し、「追加」をクリックすることで登録画面を開くことができます。

これを登録しておくことで、AIはあなたの旅館の「羅針盤」を理解し、これから行う全ての提案(ペルソナ作成、ターゲットリスト作成、コンテンツマーケティングなど)に一貫性を持たせることができます。
一度設定すれば、AIの活用が格段にスムーズになります。

今回は、若旦那が入力した以下の内容を参考に、各項目で何を考えるべきかを見ていきましょう。

1. ミッション名
今回のプロジェクトに分かりやすい名前をつけましょう。

💡
若旦那の入力例:
湯けむりの宿「月影の郷」 業務改革

2. ミッション・ビジョン(軸となる価値観)
あなたの旅館・ホテルが、お客様に提供したい根本的な価値や、お店の「志」を言葉にしましょう。

💡
若旦那の入力例:
都心の喧騒を離れ、四季の移ろいを感じるひとときを。源泉かけ流しの温泉と、旬を味わう料理で、訪れる人の心と体を解きほぐし、「また帰ってきたい」と思える第二の故郷のような場所であり続けます。

3. 目的(販促テーマ等)
前回の分析結果を踏まえ、「このプロジェクトで何を達成したいのか」を具体的に書きます。

💡
若旦那の入力例:
閑散期の平日稼働率向上のため、若者向け新プラン「選べる色浴衣で温泉街めぐり&地酒飲み比べ体験プラン」の認知度向上と予約獲得。

4. ターゲット
「誰に」喜んでもらいたいのか、お客様の顔を具体的に思い浮かべて絞り込みます。

💡
若旦那の入力例:
都内在住の20~30代女性グループ、カップル。

5. コアメッセージ・USP(独自価値提案)
「なぜ、他の旅館ではなくウチなのか?」という、競合にはない一番の強み(売り)を書き出します。

💡
若旦那の入力例:
80年の歴史が紡ぐ、本物のおもてなし。料理長が腕を振るう、目にも美しい本格会席料理と、肌を潤す源泉かけ流しの湯。ただ泊まるだけではない、心に深く刻まれる上質な時間を提供します。

このように、旅館の軸となる考えを事前にAIと共有しておくことで、この後のAIからの提案が、よりあなたの旅館の状況にフィットしたものになります。

Step 1: ターゲット顧客の再設定

まず、誰に喜んでもらいたいのか、旅館が目指すべきお客様像を明確にします。

活用するAI
ペルソナ作成アシスタント

実行アクション
現状分析で見えた「ワーケーション需要(機会)」と「若者客の少なさ(弱み)」から「都心在住で、非日常の癒やしや新しい体験を求める20~30代のカップル・女性グループ」をターゲットリストに入力します。
AIはこれらの情報から、旅館がこれから狙うべき具体的なお客様像(ペルソナ)を作成します。

作成されたペルソナ例
27歳/女性/IT企業のマーケティング担当/東京都内一人暮らし/未婚
SNS(Instagram、Twitter)、女性向けWebメディアで情報収集。など

Step 2: 新プランの開発

新しいお客様に響く、魅力的な宿泊プランを開発します。

活用するAI
商品・メニュー開発プランナー,ネーミングアシスタント

実行アクション
旅館の「強み(温泉・料理)」と、新しく設定した「お客様像」のニーズをAIにインプット。AIは、具体的なコンセプトから提供サービスまで含んだ、新しい宿泊プラン案を提案します。

提案されたプラン例
プラン名:
彩旅ワーケーション女子プラン(いろたび)
キャッチコピー: 映えて癒やす平日旅

項目

入力のポイント

入力例

自社プロフィール

旅館の基本情報を入力します。

AIが旅館の背景や立ち位置を理解するために重要です。

創業80年、都心から2時間の温泉旅館。

源泉かけ流しの露天風呂と、伝統的な会席料理が自慢。

客室数25室。

ジャンル・カテゴリー

これから開発したいプランの方向性を指定します。

ワーケーションプラン、

体験型宿泊プラン、

若者向けプラン

強み・アピールポイント

旅館の「売り」を伝える、プランの核となる部分です。

前回のSWOT分析で明らかになった自社の「強み」を活かす視点で、

具体的に入力しましょう。

源泉かけ流しの温泉。

地元の旬の食材を活かした、見た目も美しい会席料理。

都心にはない静かで落ち着いた環境。

使いたい主な素材・食材・技術

プランの具体性を高めるための要素や、

ターゲットに響きそうなキーワードを入力します。

旅館が持つリソース(地元の特産品、スタッフのスキルなど)を具体的に伝えることで、

より実現可能な提案が期待できます。

色浴衣(レンタル)、地元の地酒(飲み比べ体験として提供)、

SNS映えするデザートプレート、周辺のおすすめスポット紹介

ターゲット

Step1で設定したペルソナ(お客様像)を参考に入力します。

都心在住の20~30代女性グループ。

日常から離れてリフレッシュしたい。

SNS映えする写真や、そこでしかできない体験を重視。

目標価格帯・稼働率

ビジネスとして成立させるための価格と稼働率の目標です。

閑散期の平日、1泊2食付きで18,000円/人。

平日の稼働率を15%向上。

提供形態

提供するシーンを具体的に指定することで、

より現実的な提案が期待できます。

平日限定、

自社サイトからの予約限定特典付き。

他のプラン名も検討したい場合は、ネーミングアシスタントの活用がおすすめです。
ネーミングアシスタントが、ターゲットの心に響くような、覚えやすく魅力的なプラン名を複数提案します。

Step 3: 新プランの価値を最大限に高める価格設定

開発した新プランの価値を最大限に高める価格を決定します。

活用するAI
価格戦略アシスタント

実行アクション
価格戦略アシスタントが、新プランの価値や周辺の競合価格、季節要因を考慮し、お客様が納得し、かつ旅館の利益も確保できる最適な価格(ダイナミックプライシング)を算出します。

項目

入力のポイント

入力例

ミッション選択

事前に登録したプロジェクトを選択します。

湯けむりの宿「月影の郷」 業務改革

価格を検討するサービスや商品の内容

これから価格を決めたいプランやサービスが

どんなものかを簡潔に説明します。

若者・女性グループ向けの新しい体験型宿泊プラン。

閑散期の平日限定で提供予定。

サービスや商品の価格

目標としている価格帯や、

現在検討中の価格を入力します。

18,000円/人(1泊2食付き、税込)

競合他社の参考価格

周辺の競合旅館やホテルの、

類似したプランの価格を参考に記載します。

Aホテル:16,500円(体験なし)、

B旅館:21,000円(高級志向)、

Cホテル:17,000円(ビジネス寄り)

自社紹介ページURL

自社の公式サイトや、

旅館の概要がわかるページのURLを入力します。

(自社サイトのURL)

競合他社紹介ページURL

参考にした競合他社の公式サイトや、

料金プランが掲載されているページのURLを入力します。

(他社サイトのURL)

自社商品・メニュー・サービス紹介

価格を検討しているプランの

具体的な内容や魅力を入力します。

選べる色浴衣のレンタル、

若旦那厳選の地酒3種飲み比べ体験付き。

夕食は地元の旬の食材を活かした創作会席。

他社商品・メニュー・サービス紹介

競合他社のプラン内容で、

比較対象となる特徴などを記載します。

Aホテルはモダンな内装だが食事はビュッフェ形式。

B旅館は伝統的だが体験コンテンツはなし。

【AI活用プロセスの成果】

これまでの「なんとなく」で決めていたプラン開発から脱却し、「誰に」「何を」「いくらで」提供するのか、全ての要素がデータで裏付けられた一貫性のある戦略を立てることができました。これにより、施策の成功確率が飛躍的に高まり、旅館が進むべき道筋が明確になりました。