AIではじめる不動産DX:エース退職の危機を乗り越え、"仕組み"で勝つ組織へ(4)
エース退職の危機に瀕した不動産会社がAIと共に組織改革へ。データ分析で施策を評価し、営業の勝ちパターンを仕組み化。属人的経営を脱し、持続的に成長する組織へと変革を遂げるプロセスを描きます。
はじめに:一過性の成功で終わらせず、"仕組み"で勝ち続ける組織へ
前回の記事では、AIを活用してデジタルマーケティングの仕組みを構築し、Webからの問い合わせを増やすことに成功しました。
しかし、重要なのはこの成果を一過性で終わらせないことです。市場や顧客のニーズは常に変化します。良い状態を維持し、さらに成長し続けるためには、実行した施策の効果を正しく評価し、データに基づいて次の打ち手を考え続ける「改善のサイクル」を回していく必要があります。
このシーンでは、AIと共に施策の結果を分析し、営業活動の質を高め、会社を持続的な成長軌道に乗せていくプロセスを追っていきます。
シミュレーションの舞台
会社名: 山田不動産
概要: 開業7年目の地域密着型不動産会社。これまでエース営業マン一人の活躍でなんとか売上を維持してきた。
登場人物: 山田社長
悩み:
唯一無二のエース営業マンが大手競合に引き抜かれ、売上が激減。
特に利益率の高い「売却物件の専任媒介」を大手にことごとく奪われている。
残った社員のモチベーションも低下しており、会社の存続に強い危機感を抱いている。
何から手をつければいいのか分からず、感情的に焦る毎日を送っている。
活用シーン4: 改善・進化フェーズ - "仕組み"で勝ち続ける組織へ
【会社の課題】
Webからの問い合わせは増えたものの、どの施策がどれだけ効果があったのか、感覚的にしか把握できていませんでした。
また、新しいサービスに関する問い合わせが増えるにつれて、営業担当者ごとの提案内容にバラつきが出てきてしまい、成約率が伸び悩むという新たな課題も見えてきました。
【AI活用プロセス】
Step 1: 施策の効果を客観的に評価する
実行したマーケティング施策が、実際にどのような結果をもたらしたのかをデータで確認します。
活用するAI
ファイル分析アシスタント
実行アクション
施策開始前と後のWebサイトのアクセス解析データや、問い合わせ管理台帳(Excel)をAIにアップロード。「どのブログ記事経由の問い合わせが成約に繋がっているか」「問い合わせ顧客の年齢層や地域に変化はあったか」といった成果を、具体的な数字で把握するために分析を指示します。
1. 問い合わせに繋がった上位3つのブログ記事はどれか?
2. 施策開始前後(例:9月以前と10月以降)で、問い合わせ顧客の年齢層に変化はあるか?
3. 新サービス「実家じまい・つながり相続ラボ」経由の問い合わせの成約率」
分析結果の例
- 「相続税」に関するブログ記事からの問い合わせが最も多く、成約率も高いことが判明。
- 顧客層が、これまでの地縁による紹介中心から、Web経由の50代・遠方在住者へと狙い通りにシフトしていることを確認。
Step 2: 営業活動を標準化し、成約率を高める
分析で得られたインサイトを元に、営業の「勝ちパターン」を仕組み化し、組織全体の営業力を底上げします。
活用するAI
メール・口コミ・DM返信文作成
Sensei AI (不動産)
実行アクション
1.初回対応の質を均一化する
問い合わせへの初動対応のスピードと質を上げるため、メール・口コミ・DM返信文作成を使って返信テンプレートを作成します。
項目 | 入力ポイント | 入力例 |
対象チャンネル | どの媒体への返信かを | メール |
元の | 返信の対象となる、 | はじめまして。貴社のブログ記事を拝見し、連絡いたしました。 |
返信トーン | 生成する返信文に持たせたい | 丁寧・フォーマル |
目的(任意) | この返信を通じて | 問い合わせ対応 |
文章の長さ | 返信文のボリュームを | 200文字〜 |
自社返信参考文 | AIに「自社らしさ」を | 弊社は地域に深く根差した不動産会社として、 |

追加で指示を出して、より理想に近い返信文章に修正します。

2. 営業トークを標準化する
次に、Sensei AI (不動産)にヒアリングすべき項目をリストにしてもらいます。

AIが提案した「家族・相続人の全体像」「不動産の詳細(物件ごとに)」「金融債務・負債・税金」などのヒアリング項目を元に、全営業担当者が同じレベルで顧客の課題を深く理解できるような面談シートを作成します。
Step 3: 次の成長戦略を考える
分析結果を元に、サービスをさらに改善したり、新たな事業展開を検討したりします。
活用するAI
Sensei AI (不動産)
新規事業開発アシスタント
実行アクション
Sensei AI (不動産)にStep1の分析結果を伝え、次の具体的な施策について相談します。

AIからの提案例
- ブログ流入、税理士連携、地域ターゲティング広告の3つの施策を同時並行で実行し、セミナー集客を行う。
- 各施策には「相続税の簡易診断PDF」や「無料個別相談枠」を特典として設定し、登録率の向上を図る。
- これらの施策はコスト、スピード、見込み客の質で相互に補完し合うため、組み合わせることが重要。
- 施策を具体化するため、セミナーの対象エリア、目標参加者数、希望の参加形態(Q&A形式)について確認が必要。
さらに、将来の事業拡大を見据え、新規事業開発アシスタントを活用。
多角化に向けた具体的な道筋を描きます。
項目 | 入力のポイント | 入力例 |
コーポレート | 会社の沿革と強みを | 創業7年の地域密着型不動産会社。 |
既存事業の | 具体的な数値を使って | 月間問い合わせ数:15件、 |
目標売上 & | 「いつまでに、いくら売上を立て、黒字化するか」 | 新エリア(隣接市)にて初年度売上3,000万円、2年目での黒字化 |
供給側外部要因 | 自社ではコントロールできない | 競合となる地元大手不動産会社の存在。 |
ペルソナ & | ターゲット顧客の人物像と、 | 親から実家を相続したが遠方に住む50代。 |
事業開始日 | 事業をスタートさせたい | 2026年4月1日 |
規制・法的制約 | 事業運営に関わる法律や条例上の制約を | 宅地建物取引業法を遵守。 |

AIからの提案例
- 隣接市に新拠点を設け、遠方に住む相続オーナー向けに「実家じまい」をオンライン起点でワンストップ支援する新規事業。
- 有料相談から始まり、月額管理、売却・賃貸仲介までを一気通貫で提供し、初年度売上3,000万円、2年目での黒字化を目指す。
- 地元の士業や業者との連携を強みとし、伴走型の丁寧なサポートで競合大手との差別化を図る。
- 2026年4月の事業開始に向け、提携先開拓や集客準備を進め、段階的に事業を拡大していく計画。
【AI活用プロセスの成果】
実行した施策の結果が具体的なデータによって証明され、大きな自信につながりました。
一度きりの成功で満足するのではなく、事実に基づいて改善を繰り返すサイクル(PDCA)を回し続けることで、外部環境の変化にも対応できる「強い不動産会社」へと進化。
AIは、困った時だけ使う道具ではなく、会社の未来を共に創る、かけがえのない経営パートナーとなりました。