AIではじめる不動産DX:エース退職の危機を乗り越え、"仕組み"で勝つ組織へ(2)

AIを活用し、エース退職による危機を乗り越えるため、個人のノウハウを組織の武器へと転換する戦略立案フェーズを解説します。遠方在住の相続人をターゲットに設定し、サービスを開発、価格戦略などの事業戦略をAiと一緒に確立していきます。

AIではじめる不動産DX:エース退職の危機を乗り越え、"仕組み"で勝つ組織へ(2)
Photo by UX Indonesia / Unsplash

はじめに:反撃の糸口を、勝つための「作戦」へ

前回の記事では、AIを活用して社内外のデータを徹底的に分析し、エース退職という絶望的な状況から「地域の相続案件への対応力」という反撃の糸口を「見える化」しました。

しかし、進むべき道筋が見えただけでは会社は変わりません。その成功パターンは、まだ退職したエース社員一人の「個人の技」に過ぎないからです。重要なのは、その「個人の技」を誰もが実践できる「組織の武器」へと昇華させ、具体的な事業計画、つまり勝つための「作戦」に落とし込むことです。

このシーンでは、AIと共に「誰に、何を、いくらで提供するのか」を具体的に描き出し、属人化からの脱却と、会社再生のための設計図を完成させるプロセスを追っていきます。


シミュレーションの舞台

会社名: 山田不動産
概要: 開業7年目の地域密着型不動産会社。これまでエース営業マン一人の活躍でなんとか売上を維持してきた。
登場人物: 山田社長
悩み:
唯一無二のエース営業マンが大手競合に引き抜かれ、売上が激減。
特に利益率の高い「売却物件の専任媒介」を大手にことごとく奪われている。
残った社員のモチベーションも低下しており、会社の存続に強い危機感を抱いている。
何から手をつければいいのか分からず、感情的に焦る毎日を送っている。


活用シーン2: 戦略立案フェーズ - "個人の技"を"組織の武器"に変える

【会社の課題】

現状分析の結果、「相続不動産コンサルティング」という進むべき道筋は見えました。しかし、それはこれまでエース社員一人の属人的なスキルに依存していたもの。
この「個人の技」を、会社全体の誰もが提供できる「組織の武器」へと昇華させなければ、本当の意味での再生には繋がりません。

具体的にどのようなお客様をターゲットに、どんなサービスを、いくらで提供するべきか。感覚ではなくデータに基づいて考えていく必要があります。

【AI活用プロセス】

Step 1: ターゲット顧客の再設定

まず、誰の、どんな悩みを解決するのか。会社が目指すべきお客様像を具体的に描き出します。

活用するAI
ペルソナ作成アシスタント

実行アクション
現状分析で見えた「地元の地主からの紹介」や「相続絡みの案件」というキーワードから、「親から実家を相続したが、活用方法に困っている遠方在住の50代」をターゲットリストに入力します。
AIはこれらの情報から、狙うべき具体的なお客様像(ペルソナ)を複数作成します。

作成されたペルソナ例

  • ペルソナ1: 山本 一也(“遠方の相続人”)
  • 基本属性:54歳/男性/メーカーの管理職/東京都在住(実家は当該地域)/既婚・子ども2人(独立)
  • ライフスタイル・行動パターン:平日:都内で長時間勤務、週1回はテレワーク。週末:帰省は年数回。趣味はゴルフ・写真。情報は主にWeb検索、口コミ、LINE。
  • ニーズ・課題:親の実家を相続したが遠方で管理できない。空き家の活用方法(売却・賃貸・解体)に迷っている。大手の画一サービスに不信感がある。
  • 動機・価値観:実家を「資産」として効率よく処理したいが、故郷への思い入れも強い。信頼できる担当者の顔と実績を重視する。
  • タッチポイント(媒体・チャネル/キーメッセージ例):
    • チャネル:Google 検索、LINE、メール、実家近隣の不動産の折込チラシ、地元出身の友人からの紹介
    • メッセージ例:「遠方でも安心。現地確認・写真報告を定期的にLINEで共有します」「相続後の選択肢を分かりやすく比較提案します」
  • 典型的な一言:「都内にいて手続きが大変なんです。全部丸投げしても大丈夫ですか?」
💡
【ポイント】
生成結果をクリップしておくと、他のツールへの入力に活用できて便利です。

Step 2: 新サービスの開発

新しいお客様像(ペルソナ)の悩みを解決するための、具体的なサービスを設計します。

活用するAI
新規事業開発アシスタント

実行アクション
会社の「強み(地域密着、エースが培ったノウハウ)」と、新しく設定した「お客様像」の悩みをAIに入力。AIは、事業コンセプトから具体的なサービス内容、収益モデルまで含んだ事業計画案を提案します。

項目

入力のポイント

入力例

コーポレート
プロフィール

会社の沿革と強みを
簡潔に記述します。

創業7年、地域密着型の不動産会社。
これまで相続関連の売却案件で実績あり。
エース社員が培った地域の信頼とノウハウが強み。

既存事業の
主要KPI

具体的な数値を使って
記載します。

専任媒介契約数:エース在籍時 月平均5件→現在 月1件。
売却案件の利益率が大手との競合で著しく低下。
社員の残業時間が増加。

目標売上 &
期日

「いつまでに、いくら売上を立て、黒字化するか」
を具体的に設定します。
測定可能な目標にしましょう。

新事業で、初年度売上3,000万円を達成し、
2026年9月末までに事業単体で黒字化する。

供給側外部要因

自社ではコントロールできない
外部の課題を挙げます。
競合の動向や市場の変化など。

大手不動産がオンラインで
全国規模の相続サービスを展開。
地域の司法書士や税理士との連携が弱く、
紹介手数料が高騰している。

ペルソナ &
ペイン

ターゲット顧客の人物像と、
その人が抱える具体的な悩み(ペイン)
を記載します。

50代。親から実家を相続したが遠方に在住。
管理や売却、税金など、何から手をつけていいか分からず、
誰に相談すべきか悩んでいる。

事業開始日
(任意)

事業をスタートさせたい
具体的な日付を記入します。

2025年10月1日

規制・法的制約
(任意)

事業運営に関わる法律や条例上の制約を
事前に洗い出して記載します。

宅建業法上、弁護士・税理士・司法書士等の
独占業務は行えない。

提案されたサービスプラン例
事業名:遠方相続コンシェルジュ(地域密着・現地実装特化)

サービス内容

  • 遠方在住の相続者向けに、現地対応力を強みとした「相続不動産のワンストップ伴走サービス」を提供します。
  • 無料診断を起点に、月額伴走(1.5万円)、空き家管理(1.0万円)、売却仲介を収益の柱とし、専門業務は認定パートナーと連携します。
  • 専任率向上とコスト削減で粗利を回復させ、初年度売上3,000万円、2026年9月末の単月黒字化を目指します。
  • 地域の司法書士・税理士と協賛制ネットワークを構築し、紹介料高騰を回避して、地域の信頼を資本化します。

Step 3: 魅力的なネーミングと価格設定

開発した新サービスの価値を最大限に高める名前と、競争力のある価格を決定します。

3-1. ターゲットに響くサービス名を考案する

活用するAI
ネーミングアシスタント

実行アクション
Step 2で得たサービス内容を基に、ターゲットである「相続に悩む50代」に、安心感と専門性が伝わるような、覚えやすく魅力的なサービス名をAIに複数提案させます。

【ネーミングアシスタントへの入力例】

項目

入力のポイント

入力例

ネーミング
対象物

何の名前を考えたいのかを
入力します。

遠方相続コンシェルジュ(地域密着・現地実装特化)

提供価値・特徴

サービスがお客様に提供する価値や、
他にはない特徴を具体的に記述します。

地域密着で、税理士や司法書士と連携し相続の不安を解消。
大手にはない「顔の見える安心感」が強み。

ターゲット層
(任意)

誰に届けたいサービスなのかを
明確にします。

ペルソナ作成アシスタントで設定した
人物像を参考にすると、
よりターゲットに響く名前が期待できます。

親から実家を相続したが、
遠方に住んでおり管理や活用に困っている50代。

トーン/イメージ(任意)

名前に持たせたい雰囲気や
世界観を指定します。

専門的・学術的

文字数
(任意)

希望する名前の長さを
指定します。

(指定なし)

補足要素
(任意)

その他のこだわりや要望を
自由に入力します。

「〇〇という単語を入れたい」など、
具体的なリクエストがあれば
ここで指定します。

相続不動産に関するワンストップ相談サービス。

相談のしやすさや、具体的な悩みに寄り添う姿勢が伝わるような、親しみやすい語感を希望。

作成されたネーミング案例

  • 故郷橋(こきょうばし)|和語|
    故郷と現在地を結ぶ「橋渡し」の役割を表現。相続問題を通じて故郷とのつながりを維持する専門サービスの意味を込めた
  • 遺産コンパス|和洋混合語|
    相続(遺産)の方向性を示す羅針盤の意味。複雑な相続問題の道筋を専門的に案内するイメージを表現
  • 継承デスク|和洋混合語|
    相続を「継承」と表現することで専門性を演出。デスクで相談窓口の親しみやすさと専門対応を表現
  • つながり相続ラボ|和洋混合語|
    人とのつながりを大切にする姿勢と、ラボで専門研究機関のような信頼性を表現。親しみやすさと専門性を両立

3-2. データに基づいた最適な価格戦略を設計する

活用するAI
価格戦略アシスタント

実行アクション
新サービスの提供価値や競合(大手)の価格設定をAIにインプットし、お客様が納得し、かつ会社の利益も確保できる最適な価格戦略(どこでマネタイズするか)を算出させます。

【価格戦略アシスタントへの入力例】

項目

入力のポイント

入力例

ミッション
選択

あらかじめ設定した
ミッションを選択します。

山田不動産 再起プロジェクト

価格を検討するサービスや

商品の内容

商品・メニュー開発プランナーで考案した、
価格を決めたい新サービスの概要を
入力します。

相続不動産に関する初回相談および簡易査定

サービスや商品の価格

自身で設定した
サービス価格を入力します。

無料(0円)

競合他社の参考価格

競合となる企業の
類似サービスの価格を入力します。

大手A社:AIによる簡易査定は無料。
専門家相談は有料プランの場合あり。

自社紹介ページURL

(任意)

自社HPのURLを入力します。

企業全体のコンセプトや
雰囲気を伝える重要な情報源となります。

自社HPのURL

競合他社紹介ページURL

(任意)

競合他社のURLを入力することで、
AIが価格以外の要素も比較し、
分析の精度が高まります。

競合店HPのURL

自社商品・メニュー・

サービス紹介(任意)

新サービスの価値や
こだわりを記述します。

サービス内容、コンセプトなど、
価格の根拠となる情報を伝えましょう。

税理士や司法書士と連携し、
相続手続きから不動産の最適な活用法までワンストップでサポート。
まずは現状把握と課題整理のための無料相談を提供します。

他社商品・メニュー・

サービス紹介(任意)

競合サービスの価格以外の特徴を
入力します。
価格差の背景をAIが理解する助けになります。

大手A社はWeb上で完結するAI査定がメイン。
対面での詳細な相談や専門家紹介は、
媒介契約を結ぶことが前提のケースが多い。

【決定した戦略】

AIからの複数の提案を元に、山田社長は以下の戦略を最終決定しました。

サービス名
「つながり相続ラボ」
AIの提案の中から、人との「つながり」を大切にする姿勢と、専門的な研究機関のような「ラボ」という言葉の組み合わせが、親しみやすさと信頼性を両立できると判断。

サービス概要
遠方に住む相続者を対象に、地域密着の現地対応力を活かした「ワンストップ伴走サービス」。
初回相談から空き家管理、専門家連携、最終的な売却まで、相続のあらゆる面倒事をコンシェルジュとして一括で引き受け、お客様に寄り添い伴走します。

価格戦略
顧客の反応を見ながら最適価格を模索するため、段階的なテストを実施します。

  1. 初回相談は「無料+予約デポジット制」で開始。
    無断キャンセルを抑制し商談の質を高める目的で、まず3ヶ月間テスト運用します。
  2. 有料プラン(3,300円~)のA/Bテストを並行実施。
    テスト結果を基に、媒介契約への転換率が最も高くなる価格体系を正式に採用します。

【AI活用プロセスの成果】

これまでの「エースの勘」に頼っていた営業スタイルから脱却し、「誰に」「何を」「いくらで」提供するのか、全ての要素がデータで裏付けられた事業戦略を立てることができました。

エース個人のノウハウが、他の社員でも実践可能な「サービスパッケージ」として体系化され、会社全体の提供価値が大きく向上。社長の頭の中にしかなかった反撃のアイデアが、全社員が共有できる具体的な行動計画へと進化し、会社の未来を照らす光となりました。