AIではじめる不動産DX:エース退職の危機を乗り越え、"仕組み"で勝つ組織へ(2)
AIを活用し、エース退職による危機を乗り越えるため、個人のノウハウを組織の武器へと転換する戦略立案フェーズを解説します。遠方在住の相続人をターゲットに設定し、サービスを開発、価格戦略などの事業戦略をAiと一緒に確立していきます。
はじめに:反撃の糸口を、勝つための「作戦」へ
前回の記事では、AIを活用して社内外のデータを徹底的に分析し、エース退職という絶望的な状況から「地域の相続案件への対応力」という反撃の糸口を「見える化」しました。
しかし、進むべき道筋が見えただけでは会社は変わりません。その成功パターンは、まだ退職したエース社員一人の「個人の技」に過ぎないからです。重要なのは、その「個人の技」を誰もが実践できる「組織の武器」へと昇華させ、具体的な事業計画、つまり勝つための「作戦」に落とし込むことです。
このシーンでは、AIと共に「誰に、何を、いくらで提供するのか」を具体的に描き出し、属人化からの脱却と、会社再生のための設計図を完成させるプロセスを追っていきます。
シミュレーションの舞台
会社名: 山田不動産
概要: 開業7年目の地域密着型不動産会社。これまでエース営業マン一人の活躍でなんとか売上を維持してきた。
登場人物: 山田社長
悩み:
唯一無二のエース営業マンが大手競合に引き抜かれ、売上が激減。
特に利益率の高い「売却物件の専任媒介」を大手にことごとく奪われている。
残った社員のモチベーションも低下しており、会社の存続に強い危機感を抱いている。
何から手をつければいいのか分からず、感情的に焦る毎日を送っている。
活用シーン2: 戦略立案フェーズ - "個人の技"を"組織の武器"に変える
【会社の課題】
現状分析の結果、「相続不動産コンサルティング」という進むべき道筋は見えました。しかし、それはこれまでエース社員一人の属人的なスキルに依存していたもの。
この「個人の技」を、会社全体の誰もが提供できる「組織の武器」へと昇華させなければ、本当の意味での再生には繋がりません。
具体的にどのようなお客様をターゲットに、どんなサービスを、いくらで提供するべきか。感覚ではなくデータに基づいて考えていく必要があります。
【AI活用プロセス】
Step 1: ターゲット顧客の再設定
まず、誰の、どんな悩みを解決するのか。会社が目指すべきお客様像を具体的に描き出します。
活用するAI
ペルソナ作成アシスタント
実行アクション
現状分析で見えた「地元の地主からの紹介」や「相続絡みの案件」というキーワードから、「親から実家を相続したが、活用方法に困っている遠方在住の50代」をターゲットリストに入力します。
AIはこれらの情報から、狙うべき具体的なお客様像(ペルソナ)を複数作成します。

作成されたペルソナ例
- ペルソナ1: 山本 一也(“遠方の相続人”)
- 基本属性:54歳/男性/メーカーの管理職/東京都在住(実家は当該地域)/既婚・子ども2人(独立)
- ライフスタイル・行動パターン:平日:都内で長時間勤務、週1回はテレワーク。週末:帰省は年数回。趣味はゴルフ・写真。情報は主にWeb検索、口コミ、LINE。
- ニーズ・課題:親の実家を相続したが遠方で管理できない。空き家の活用方法(売却・賃貸・解体)に迷っている。大手の画一サービスに不信感がある。
- 動機・価値観:実家を「資産」として効率よく処理したいが、故郷への思い入れも強い。信頼できる担当者の顔と実績を重視する。
- タッチポイント(媒体・チャネル/キーメッセージ例):
- チャネル:Google 検索、LINE、メール、実家近隣の不動産の折込チラシ、地元出身の友人からの紹介
- メッセージ例:「遠方でも安心。現地確認・写真報告を定期的にLINEで共有します」「相続後の選択肢を分かりやすく比較提案します」
- 典型的な一言:「都内にいて手続きが大変なんです。全部丸投げしても大丈夫ですか?」
生成結果をクリップしておくと、他のツールへの入力に活用できて便利です。
Step 2: 新サービスの開発
新しいお客様像(ペルソナ)の悩みを解決するための、具体的なサービスを設計します。
活用するAI
新規事業開発アシスタント
実行アクション
会社の「強み(地域密着、エースが培ったノウハウ)」と、新しく設定した「お客様像」の悩みをAIに入力。AIは、事業コンセプトから具体的なサービス内容、収益モデルまで含んだ事業計画案を提案します。
項目 | 入力のポイント | 入力例 |
コーポレート | 会社の沿革と強みを | 創業7年、地域密着型の不動産会社。 |
既存事業の | 具体的な数値を使って | 専任媒介契約数:エース在籍時 月平均5件→現在 月1件。 |
目標売上 & | 「いつまでに、いくら売上を立て、黒字化するか」 | 新事業で、初年度売上3,000万円を達成し、 |
供給側外部要因 | 自社ではコントロールできない | 大手不動産がオンラインで |
ペルソナ & | ターゲット顧客の人物像と、 | 50代。親から実家を相続したが遠方に在住。 |
事業開始日 | 事業をスタートさせたい | 2025年10月1日 |
規制・法的制約 | 事業運営に関わる法律や条例上の制約を | 宅建業法上、弁護士・税理士・司法書士等の |

提案されたサービスプラン例
事業名:遠方相続コンシェルジュ(地域密着・現地実装特化)
サービス内容
- 遠方在住の相続者向けに、現地対応力を強みとした「相続不動産のワンストップ伴走サービス」を提供します。
- 無料診断を起点に、月額伴走(1.5万円)、空き家管理(1.0万円)、売却仲介を収益の柱とし、専門業務は認定パートナーと連携します。
- 専任率向上とコスト削減で粗利を回復させ、初年度売上3,000万円、2026年9月末の単月黒字化を目指します。
- 地域の司法書士・税理士と協賛制ネットワークを構築し、紹介料高騰を回避して、地域の信頼を資本化します。
Step 3: 魅力的なネーミングと価格設定
開発した新サービスの価値を最大限に高める名前と、競争力のある価格を決定します。
3-1. ターゲットに響くサービス名を考案する
活用するAI
ネーミングアシスタント
実行アクション
Step 2で得たサービス内容を基に、ターゲットである「相続に悩む50代」に、安心感と専門性が伝わるような、覚えやすく魅力的なサービス名をAIに複数提案させます。
【ネーミングアシスタントへの入力例】
項目 | 入力のポイント | 入力例 |
ネーミング | 何の名前を考えたいのかを | 遠方相続コンシェルジュ(地域密着・現地実装特化) |
提供価値・特徴 | サービスがお客様に提供する価値や、 | 地域密着で、税理士や司法書士と連携し相続の不安を解消。 |
ターゲット層 | 誰に届けたいサービスなのかを ペルソナ作成アシスタントで設定した | 親から実家を相続したが、 |
トーン/イメージ(任意) | 名前に持たせたい雰囲気や | 専門的・学術的 |
文字数 | 希望する名前の長さを | (指定なし) |
補足要素 | その他のこだわりや要望を 「〇〇という単語を入れたい」など、 | 相続不動産に関するワンストップ相談サービス。 相談のしやすさや、具体的な悩みに寄り添う姿勢が伝わるような、親しみやすい語感を希望。 |

作成されたネーミング案例
- 故郷橋(こきょうばし)|和語|
故郷と現在地を結ぶ「橋渡し」の役割を表現。相続問題を通じて故郷とのつながりを維持する専門サービスの意味を込めた - 遺産コンパス|和洋混合語|
相続(遺産)の方向性を示す羅針盤の意味。複雑な相続問題の道筋を専門的に案内するイメージを表現 - 継承デスク|和洋混合語|
相続を「継承」と表現することで専門性を演出。デスクで相談窓口の親しみやすさと専門対応を表現 - つながり相続ラボ|和洋混合語|
人とのつながりを大切にする姿勢と、ラボで専門研究機関のような信頼性を表現。親しみやすさと専門性を両立
3-2. データに基づいた最適な価格戦略を設計する
活用するAI
価格戦略アシスタント
実行アクション
新サービスの提供価値や競合(大手)の価格設定をAIにインプットし、お客様が納得し、かつ会社の利益も確保できる最適な価格戦略(どこでマネタイズするか)を算出させます。
【価格戦略アシスタントへの入力例】
項目 | 入力のポイント | 入力例 |
ミッション | あらかじめ設定した | 山田不動産 再起プロジェクト |
価格を検討するサービスや 商品の内容 | 商品・メニュー開発プランナーで考案した、 | 相続不動産に関する初回相談および簡易査定 |
サービスや商品の価格 | 自身で設定した | 無料(0円) |
競合他社の参考価格 | 競合となる企業の | 大手A社:AIによる簡易査定は無料。 |
自社紹介ページURL (任意) | 自社HPのURLを入力します。 企業全体のコンセプトや | 自社HPのURL |
競合他社紹介ページURL (任意) | 競合他社のURLを入力することで、 | 競合店HPのURL |
自社商品・メニュー・ サービス紹介(任意) | 新サービスの価値や サービス内容、コンセプトなど、 | 税理士や司法書士と連携し、 |
他社商品・メニュー・ サービス紹介(任意) | 競合サービスの価格以外の特徴を | 大手A社はWeb上で完結するAI査定がメイン。 |

【決定した戦略】
AIからの複数の提案を元に、山田社長は以下の戦略を最終決定しました。
サービス名
「つながり相続ラボ」
AIの提案の中から、人との「つながり」を大切にする姿勢と、専門的な研究機関のような「ラボ」という言葉の組み合わせが、親しみやすさと信頼性を両立できると判断。
サービス概要
遠方に住む相続者を対象に、地域密着の現地対応力を活かした「ワンストップ伴走サービス」。
初回相談から空き家管理、専門家連携、最終的な売却まで、相続のあらゆる面倒事をコンシェルジュとして一括で引き受け、お客様に寄り添い伴走します。
価格戦略
顧客の反応を見ながら最適価格を模索するため、段階的なテストを実施します。
- 初回相談は「無料+予約デポジット制」で開始。
無断キャンセルを抑制し商談の質を高める目的で、まず3ヶ月間テスト運用します。 - 有料プラン(3,300円~)のA/Bテストを並行実施。
テスト結果を基に、媒介契約への転換率が最も高くなる価格体系を正式に採用します。
【AI活用プロセスの成果】
これまでの「エースの勘」に頼っていた営業スタイルから脱却し、「誰に」「何を」「いくらで」提供するのか、全ての要素がデータで裏付けられた事業戦略を立てることができました。
エース個人のノウハウが、他の社員でも実践可能な「サービスパッケージ」として体系化され、会社全体の提供価値が大きく向上。社長の頭の中にしかなかった反撃のアイデアが、全社員が共有できる具体的な行動計画へと進化し、会社の未来を照らす光となりました。