AIではじめる不動産DX:エース退職の危機を乗り越え、"仕組み"で勝つ組織へ(1)
エース退職で危機に陥った地域密着の不動産会社が、AIを活用して再起を図ります。AIでの競合分析から自社の弱みを把握し、「地域×相続」に特化する戦略を見出すまでを解説します。
はじめに
「うちのエースが辞めてから、売上が激減してしまった…」
「大手との競争で、条件の良い物件の専任媒介が全く取れない」
「このままでは廃業も時間の問題かもしれない…」
これらは、地域に根ざす多くの不動産会社が直面する、深刻な悩みです。長年の経験や個人の営業力に頼ってきた経営は、たった一人の退職で根幹から揺らいでしまう危険性をはらんでいます。
この記事では、こうした危機的状況を打開する具体的な手法として「AIの活用」を提案します。
エース社員の退職で売上が激減した、とある不動産会社の「山田社長」をモデルケースに、AIを使って絶望的な状況を客観的なデータとして「見える化」し、会社を再生させるための具体的な反撃の糸口を見つけ出すまでをステップごとに解説していきます。
シミュレーションの舞台
会社名: 山田不動産
概要: 開業7年目の地域密着型不動産会社。これまでエース営業マン一人の活躍でなんとか売上を維持してきた。
登場人物: 山田社長
悩み:
唯一無二のエース営業マンが大手競合に引き抜かれ、売上が激減。
特に利益率の高い「売却物件の専任媒介」を大手にことごとく奪われている。
残った社員のモチベーションも低下しており、会社の存続に強い危機感を抱いている。
何から手をつければいいのか分からず、感情的に焦る毎日を送っている。
活用シーン1: 現状把握フェーズ - "絶望的な状況"から"反撃の糸口"を見つける
【会社の課題】
エースが抜けた穴は大きく、売上は下がる一方。「このままでは廃業も時間の問題だ…」と山田社長は追い詰められていました。感情的な焦りを一旦脇に置き、なぜ自社が選ばれなくなったのか、冷徹な事実と向き合う必要がありました。
【AI活用プロセス】
【準備】AIの提案精度を上げる「ミッション」を登録しよう
具体的な戦略を立てる前に、非常に重要な準備があります。それは、AIに「私たちの会社が目指す方向性」を教え込む「ミッション」の登録です。
「ミッション」を登録しておくことで、AIはあなたの会社の「羅針盤」を理解し、これから行う提案(ペルソナ作成、新規事業開発など)に一貫性を持たせることができます。
一度設定すれば、AIの活用が格段にスムーズになります。今回は、山田社長が入力した以下の内容を参考に、各項目で何を考えるべきかを見ていきましょう。
1. ミッション名
今回のプロジェクトに分かりやすい名前をつけましょう。
山田不動産 再起プロジェクト
2. ミッション・ビジョン(軸となる価値観)
あなたの会社が、お客様に提供したい根本的な価値や、会社の「志」を言葉にしましょう。
大手には真似できない、心のこもったサービスを地域のお客様に。大切な資産を安心して任せてもらえる、この街で一番頼りになる不動産会社であり続ける。
3. 目的(販促テーマ等)
「このプロジェクトで何を達成したいのか」を具体的に書きます。
大手競合に奪われている「売却物件の専任媒介」の獲得件数を回復させる。社員が自信と誇りを取り戻し、会社一丸となってこの危機を乗り越える。
4. ターゲット
「誰に」喜んでもらいたいのか、お客様の顔を具体的に思い浮かべて絞り込みます。
この地域に長く住み、大手企業の画一的なサービスに不安を感じている方。自分の大切な家を、信頼できる地元の会社に親身になって売却してほしいと願う方。
5. コアメッセージ・USP(独自価値提案)
「なぜ、他の大手不動産会社ではなくウチなのか?」という、競合にはない一番の強み(売り)を書き出します。
7年間この地域で培った知識と人脈で、お客様に最適な売却方法をご提案。迅速、丁寧、そして正直な対応をお約束します。
このように、会社の軸となる考えを事前にAIと共有しておくことで、この後のAIからの提案が、よりあなたの会社の状況にフィットしたものになります。
Step 1: 専門家AIに"駆け込み相談"し、進むべき方向を決める
何が致命傷で、何から手をつけるべきか。まずは思考を整理し、専門的な視点から診断のロードマップを得ます。
活用するAI
Sensei AI (不動産)
実行アクション
AIコンサルタントに、窮状をそのまま入力して相談します。

AIはパニック状態の思考を整理し、以下の3つの視点で段階的に原因を究明することを提案しました。
- 「売上減の構造」を分解(顧客別/担当者別/商談段階)
- 「専任媒介の契約状況(会社名義か個人名義か)」
- 「現金繰り(キャッシュランウェイ)」
Step 2: 社内に眠る"お宝データ"から、エースの「勝ちパターン」を解明する
AIの提案に基づき、まずは社内のデータから「なぜエースだけが売れたのか」という、属人化されたノウハウの正体を突き止めます。
活用するAI
ファイル分析アシスタント

・一度に分析できるのは、1ファイル/15MB以内、最大5ファイルまでです。
・お客様の氏名や連絡先などの個人情報は、分析前に必ず削除またはマスキングしてください。
・分析の精度を高めるため、過去1〜3年分のデータがあると傾向を掴みやすくなります。
実行アクション
過去の営業日報、顧客管理台帳、成約データ(Excel)をAIにアップロード。
分析の指示を出します。
分析結果の例
- エースは「地元の地主からの紹介による、相続絡みの高単価な売却案件」のクロージング率が85%と異常に高かった。
- 一方、他のメンバーはポータルサイト経由の「一般的な住み替え(買主探し)」案件が中心で、利益率が低い上にクロージング率も20%台に留まっていた。
- 会社の利益構造が、エース一人の「高単価な売却案件(元付け)」に依存していた事実が可視化された。
Step 3: 競合を"丸裸"にし、自分たちの「周回遅れ」を認識する
次に、なぜその「高単価な売却案件」を大手に奪われているのか、外部環境を分析して敗因を特定します。
活用するAI
自社SWOT分析アシスタント

実行アクション
競合となっている大手不動産会社のWebサイトURLを入力。
AIに、そのサービス内容、強み、打ち出しているメッセージを分析させます。
・自社の公式サイトURLだけでなく、分析したい競合他社のWebサイトURLや、SUUMO・HOME'Sといったポータルサイトに掲載されている競合の紹介ページのURLも入力することで、競合他社の分析が可能です。
・複数の情報を入力することで、より多角的な分析が可能になります。
・生成結果をクリップしておくと、他のツールへの入力に活用できて便利です。
分析結果の例:
- 競合の強み: 大手は「AI一括査定」を入り口に、膨大なデータに基づいた詳細な「査定レポート」を自動で提供。さらに「相続専門チーム」をWebサイトで大々的にアピールし、税理士などとの連携も明記している。
- 自社の弱み: 自社の査定は「価格の提示」のみ。顧客が求める「根拠」や「安心感」を提供できていなかった。
Step 4: 分析結果を統合し、"反撃の戦略"を導き出す
これまでの分析で得た「内部の強み(の源泉)」と「外部の脅威」を掛け合わせ、自社が生き残るための唯一の道筋をAIと共に見つけ出します。
活用するAI
Sensei AI (不動産)
実行アクション
これまでの分析結果をAIに伝えて会社がとるべき戦略を質問します。
②大手も相続に強いが、サービスは画一的
上記の状況で、我々のような小さな会社が取るべき戦略は?」

AIからの戦略提案例
- 大手とは戦わず、「地域×相続」に特化し、信頼と手間削減、感情ケアを重視したワンストップサービスで差別化を図ります。
- 短期的には既存顧客や地域の士業・金融機関等との連携で専任案件を確保し、中長期的には地域の相続相談プラットフォームを目指します。
- 成功の鍵は、経営層が自ら顧客対応にあたり、専門家ネットワークを活かして、相続の面倒事を一括で解決する体制を築くことです。
【AI活用プロセスの成果】
これまで「エースがすごかった」としか言語化できなかった成功要因が、「地域の地主からの信頼」と「相続案件への対応力」という具体的な経営資源であることがデータによって証明されました。
絶望的な状況の中から、大手との差別化を図るための明確な事業の方向性という、反撃の糸口を見つけ出すことができました。